モンゴルの北西部ロシアとの国境近くにあるのは、平原がずぅっと広がるモンゴルの中でも高低差のある丘が連なる針葉樹林地帯。
ツァガヌール村では人々は密集した家に住んでいるが、一歩離れればそこは大自然。人々はゲルと呼ばれるテントや、小さな丸太小屋に住んでいる。
この地域は”タイガ”と呼ばれ、トナカイと共に生きる遊牧民たちが昔から生きてきた。
彼らはもともとトヴァ共和国に居住していたトヴァ民族であり、一般的に彼らは”ツァータン(トナカイを飼う人々)”と呼ばれるそう。
ツァガヌール湖の近くでホームステイをして1週間。ついに彼らを訪れる機会がやってきました。
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ホーストレッキングでツァータンの住む森”タイガ”へ
ホームステイでモンゴル遊牧民式の生活にも慣れてきたある日。
ホームステイ先の家族と夕食を食べていると、長男のエカが「もしよければ明日からツァータンの人々に会いに行かないか?」と誘ってくれた。
ついにこの日がやってきた。
ツァータンの人々は、モンゴル北西部の”タイガ”と呼ばれる山岳地帯にトナカイと共に遊牧しながら住んでおり、訪れるのはツァガヌールからでも簡単ではない。
彼らは遊牧民であり、一つの場所にとどまって暮らしているわけではありません。
彼らの秋の野営地にはホーストレッキングで1泊2日かけてやっと辿り着く。車が通れるような道は無い。
彼らに会いに行く旅の準備として数日間の食料を買い込み、私とエカのための馬2頭と荷物用の馬1頭の計3頭を手配した。
馬に乗ってこんなに長距離を歩くのは初めての経験。案内役のエカに荷物用の馬を任せ、こちらは一人でマイペースにモンゴルの平原の中を行く。
私がマイペースでいるので、馬も自分勝手にふるまい始める。好きな場所で草を食べたり、糞をしたり。エカの見よう見真似で自由奔放な馬を何とかコントロールしながら進む。
動かなくなったら「チョー、チョー」といって、馬の腹をやさしく蹴って、前に進む合図をする。あまり強く蹴ると走り出すので恐い。
馬のコントロールに必死な私とは反対に、途中で会うモンゴルの人々は馬にサドルをつけることもなく、そのまま馬の背中に乗っている。そして駆けている。
さすが遊牧民。
5時間ほどは馬に乗りながら歩いただろうか。到着した1日目のキャンプ地は、きれいな川の流れる場所。
私の他にもホーストレッキングを楽しんでいる人々が多いらしく、テントがいくつも設営されていました。
私が泊まったのはテーペーと呼ばれる簡易なテント。地面はマットも敷いておらず、草そのまま。
まだ9月なのだが、夜になると結構寒い。準備してきた2つの寝袋を重ねて眠りについた。
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トナカイと共に生きる遊牧民ツァータンの人々との出会い
冷え込んだ夜だった。二重にしていた寝袋を頭までかぶり、呼吸のために口元だけ出した部分からは白い息が出ている。
ツーンとしてきりっとした朝の空気。温かいお茶を入れ、朝ごはんを口に含んで出発の準備。
今日はついにツァータンの民が住む、秋の野営地へ向かう。
2日目のホーストレッキングは1日目よりハードだった。まず地面が湿原のようにぐちょぐちょになっている。
これは馬でしか来れないわけだ。歩いたら足がずぼっと泥にはまって抜けないだろう。
馬も歩きにくそうで、突然泥の深みにはまったり、川を越えるのを怖がったりして、コントロールするのが大変だった。
こんな中6時間ぐらい馬に乗って歩いたので、後半はもうお尻がパンパンになって痛くて、ひざはガクガクになっていたほど。
馬に乗っているだけ?いやいやホーストレッキングって意外とキツイです。
だけども秋の森は黄色く赤く染まって美しく、そんな苦労も気にならない。
休憩中は自然になっているベリーを拾って食べたり、少しずつ進んでいく。
そんな森林地帯の中を歩いていると、前方に馬に乗った人の姿が見えてくる。
あれ?
よく見たら馬ではなくて、トナカイに乗ってる!
トナカイに乗っている人は今までの人生で初めて見ました。
しかもこんな小さな子供がトナカイを操っている。
今まで自分が全く知らなかった世界との遭遇。いったい人生で何回こんな感動に巡りあえるのだろう。
どうやら数日間、彼らの家にお邪魔させていただくことになるようです。
彼らは写真のように木で作った骨組みに、厚手の布を巻きつけたテントに住んでいます。
パッと見た感じからは想像できませんが、なんと外にはソーラーパネルがあり、テントの中にはテレビやベッドもありました。
かなり寒そうだと思われる方もいると思いますが、中央にある薪ストーブに火をつけると中は一気に温かくなります。
ツァータンの人々はトナカイを放牧して暮らしています。彼らはまるで馬に乗るかのようにトナカイに乗りこなして移動し、荷物を運ぶ。
トナカイの角は薬になり、食料としてトナカイの肉を食べミルクを飲み、毛皮はコートや靴となります。
彼らと共に暮らして3日目に初めてトナカイに乗せてもらいました。トナカイに乗るなんて、これが一生に一度の経験だと思う。
背が低いので乗りやすい。乗り心地はロバのような、馬よりも安定した感じで、操り方は馬と同じ。頭に架かったひもで方向を調整します。
トナカイに乗せてもらえたのは、ちょうどこの時期は松の実が取れる時で、トナカイに乗ってその仕事を手伝うため。
松の実の集め方は極めてシンプルです。
松がたくさんある山の上の方までトナカイに乗って登っていく。
長い木の棒で枝を揺らして松ぼっくりを落とす。
落ちてきた松ぼっくりを袋に詰める。
その後、斧で松ぼっくりを叩いて中にある実を取り出します。めちゃくちゃ地道な作業。
松脂がついて手がネバネバに。
そして最後にふるいにかけて松の実とその他の部分を分けます。
これが彼らの貴重な現金収入になるそう。
仕事を手伝った後は、彼らの住む美しい自然の中を歩いてみました。
秋色に染まった森とゴツゴツした山。
山の上流から流れてくる川の水はそのまま飲めます。
トナカイの主なエサは草のほかにコケだそうで、地面にはたくさんのコケが生えていました。
このコケは生長が遅く、1年に数センチしか育たないそうです。そのためツァータンの人々は、トナカイの食糧を求めて年に何回も移動を繰り返します。
突然彼らを訪れたにも関わらず、彼らは見知らぬ旅人である私を心よく迎えてくれました。
まずは元気な二人のおちびちゃん。最初はシャイでしたが、慣れてくると元気いっぱいに一緒に遊んだ。
自然の中で駆け回る。笑顔がはじける。
お父さんの見よう見真似でトナカイの世話のお手伝いだってします。
お母さんは私のために毎日ご飯を作ってくれました。朝は自家製パンにチーズのような乳製品。朝夕はスープを作ってくれた。
こちらからは村から離れた彼らのために、コメや小麦粉などを村から運んできました。村まで2日もかかるような場所だと、食料を買いに行くだけでも大変です。
水は毎回近くを流れる川から汲んできます。シャワーもないので川の水を利用する。山から直接流れてきている水なので、水の温度が冷たい。
私のために、彼らは自分たちの住むテントの中で寝床を用意してくれました。ベッドの上に動物の毛皮が敷いてある快適な寝床。
数日間一緒に寝食を共にしました。ツァータンの人々と共に過ごした日々はいい思い出。
かわいい2人のおちびちゃん達には、少し大きなお姉ちゃんもいます。彼女は今ツァガヌールにある小学校に通っているそう。
小学校に通う歳になると、彼らは学校の寮に住みながら勉強するそうです。そして月に何度か週末だけ帰ってくる。
時代は移り変わっていき、彼らのような暮らしを続ける人もどんどん少なくなってくるだろう。実際に街に移り住んだツァータンの人々も多いそうだ。
もしもう一度彼らを訪れることがあれば、彼らはどんな風に暮らしているだろう。また一緒にトナカイに乗って、松の実を採りに行きたい。
おわりに
数日の滞在後、また同じ道を辿ってツァガヌールに帰りました。
メールアドレスもない彼らだから、モンゴルを離れた今では連絡を取ることも難しい。
でもいつかまた素敵な彼らと出会えることを願っています。
旅の続きはこちら
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