オアハカを去った後、ワークアウェイを使って約1ヵ月ほどコーヒー・カカオファームにて、ボランティアとして働いていた。
プエルト・エスコンディドから約50kmほど北、標高1000mほどの山間部に位置するエル・サグラドというファーム。
親切なホスト家族と過ごし、心も体も満たされた日々。
エル・サグラド(Rancho El Sagrado)での日々
オアハカを去ってやってきたのは、太平洋に面する街プエルト・エスコンディドから、北に50kmほど離れた山間部にある農園「ランチョ・エル・サグラド」。
美しい自然に囲まれたこの農園で、コーヒーやカカオの収穫から乾燥、焙煎まで、ボランティアとして1ヵ月ほどお手伝いしながら色々と経験させてもらっていました。
お世話になっていたのはルシオとラケルの家族。彼らの子供ユウに、ラケルの両親と弟。そして一緒に働いていた各国からのボランティアやゲストたち。
何とラケルと彼女の母親は、1990年に日本へ働きに来たことがあって、その時の思い出を懐かしそうに語ってくれたこともあった。
今度は彼女の子供ユウが将来日本を訪れたいらしく、その時は両手を広げて受け入れてあげたいなと思う。
標高1000mに位置する農園は美しい森林に囲まれていて、その木々の木陰にバナナなどと一緒にコーヒーやカカオが植えられている。
無農薬で様々な木々や果樹を混植して育てる、生物多様性に重要性を置いた農業。今の言葉で言うならアグロフォレストリーを行っている。
農園での主な仕事の一つはコーヒー豆の収穫と乾燥であった。
急な斜面に植えられたコーヒーの木々。その枝には赤々と熟したコーヒーの実が。
緑の実はまだ未成熟、黄色と赤色の実を一粒ずつ手で収穫するのが仕事。
コーヒーの木の枝は、想像以上に柔軟で、高い位置にある枝でも釣り竿のようにしならせて収穫できるのには驚いた。
ただ急斜面を上り下りしながら収穫するのは簡単な仕事ではない。
収穫したコーヒーの実でいっぱいになった大きな袋。
そしてその日のうちに、そこからコーヒー豆を取り出すのだが、使用しているのは下の写真のような自転車式パルピングマシン。
自転車を漕ぐとコーヒーの実を押しつぶすようにして果肉と外皮を取り除くことができ、実の部分と豆に分ける。
そして取り出したコーヒー豆を水に浸し数日間発酵させる。
発酵させることでミューシレージを含む果実が剥がれるのだとか。
数日発酵させた後、コーヒー豆を乾燥させる。ここでは天日干しで数週間かけて自然の力でじっくりと。
下の写真はコーヒーの実から、焙煎されたコーヒーまで。
写真左は乾燥が終わったコーヒー豆で、そこから生豆を取り出して焙煎する。
焙煎したコーヒー豆を手動で挽いて粉末状に。
農園のキッチンには粉末状にした新鮮なコーヒーが常に常備してあって、好きなだけコーヒーを飲む事ができた。
朝起きてキッチンから木漏れ日を眺めながら飲むコーヒー、仕事終わりの至福の一杯。幸せな時間だった。
育苗しているコーヒーの若木もたくさんあって、雨期の時期に植えるそうだ。
数年後に戻ってくると、農園がどんな風に変わっているのだろう。
続いては、カカオ関係の仕事。
初めてカカオの収穫から発酵、乾燥、焙煎まで経験できて、めちゃくちゃ面白かった。
まずはカカオって、下の写真のように実がなるのです。
枝からだけでなく、幹から直接カカオの実がぶら下がっているのが面白い。
色んな品種があるのだが、濃い黄色やオレンジ色になれば収穫時だという。
カカオをぐりぐりとねじる様にして収穫していく。
採れたてのカカオの豆はぬるっとして柔らかく、外側の白い部分は食べると酸味と甘み、豆自体をかみ砕くと苦みが出てくる。
そして収穫したばかりのカカオ豆は木箱に入れて発酵、乾燥させる。乾燥させる過程で豆は白色から茶色に。
発酵の過程で種子の中の成分が変化し、カカオ豆の香りの成分が醸成されるのだという。
カカオ豆を発酵させる過程があるのは初めて知った。
十分に乾燥させたカカオ豆はオアハカ伝統の陶器コマルでこのように焙煎する。
焦がさないように手早くまぜながら焙煎していくと、香ばしい匂いが漂ってくる。
そしてまだ焙煎したてで温かいカカオ豆を一口かみ砕くと、旨味抜群の苦みが口に広がる。
これからチョコレートが作られるのだけれど、もうこのままで十分すぎるほど美味しい。
コーヒーやカカオに加えて、農園にはターメリック、マンゴー、バナナ、ワナワナなどのフルーツが育つ。
美しい花々も咲き乱れ、森林に設置された養蜂箱からはハチミツも採取できる。
素敵な暮らしだなぁーと思う。
あとこの農園で初めて知ったのが、バニラがメキシコや中央アメリカ原産であったということ。
マダガスカルがバニラの生産で有名ですが、ポリネーターが存在しないため、結実させるためには人工授粉させる必要がある。
当然ここメキシコは原産国であるので、ポリネーターのハリナシバチが、自然にバニラを受粉させるのだという。
ちなみに下の写真が植物のバニラ。
また下の写真はアチョーテ。メキシコでは料理に赤い色を加える目的で自然の着色料として利用されるのだとか。
ある日にはスイスの学生たちが、教授に引率されて農園を見学にやってきた。
生物学を勉強している学生達で熱帯地方の植物や昆虫を含む生態系に興味津々。
農園を周りながら植物と昆虫の共生関係などについての話を聞いていると、面白くて大学で生物学を学びたくなってしまった。
またランチョ・エル・サグラドを、さらに特別な存在にしているのは、テマスカルの存在だろう。
テマスカルとは、メキシコの伝統式サウナ。
「テマス」が蒸気、「カル」が家という意味で、つまり「蒸気の家」という意味のナワトル語由来の言葉らしい。
テマスカルは、その昔から宗教的・儀式的な要素も含まれていたという。
ホストファミリーのラケルとフリオは、テマスカルの先生でもありオアハカや各地でコースを開いてテマスカルを教えている。
その関係で幸運な事に滞在中に二度もテマスカルを体験する事ができた。
テマスカルの儀式は単なるサウナではなく、肉体的、精神的、スピリチュアルな要素を包含した儀式。
そのため、身体的な健康だけでなく、自身の魂を浄化したいという目的で訪れる客も多い。
薬草を煎じた水から生じる蒸気を、不調な器官、骨折、関節、出産を控えた子宮、肺づまり、筋肉の痙攣など、癒したい体に部分的に届けることで、出産や病気の治癒に効果があるとも言われている。
さらに、ストレスや不安の軽減にも役立つという。
ここでは、下記の写真のようなドーム状の建物に火で熱した石を置いていく。
そこに薬草で煎じた熱湯をかけ、建物内部を蒸気で満たし、それを全身で浴びることにより心身共に浄化していった。
まずは石を熱するところから準備するので、そのために薪を組むところから。
各方角に愛・智慧・祈りなど思いを込めながら、薪と石を組んでいく、ダイナミック・メディテーション・スピリチュアルな儀式でもある。
ちなみに使用する石は花崗岩。
テマスカルに使う薬草の準備で、ローズマリー、バジルなどを組み合わせた特別なブーケ。
儀式の最中に苦しくなると、薬草の匂いを嗅いで精神を落ち着かせたり、体にこすりつけてその薬用効果を感じる役割も。
この世界には4つの要素がある。それは、土、火、空気、水。
テマスカルは、このすべてを使って人の心身を浄化する儀式。
火で熱した石に水をかけて、土でできた部屋で蒸気を全身に浴びる。
テマスカルの中は母親の胎内と同じで、中にいる間に体は浄化されて、完全にピュアな状態になる。
最後外に出てくるとき、人間は子宮から出てくる→新しく生まれ変わることになるということだ。
東西南北の4方向、大地、天空に祈りを捧げ、楽器と歌とともに薪に火をくべる。
植民地時代が長かったにもかかわらず、古代から現在まで忘れられることのなかった古代文明の精神文化を感じる。
火をくべるのに使うのはオコテと呼ばれる松の木の中心部分。天然のスターターでよく火がつく。
テマスカルに入る前に煙で体を清め、中では熱い石を置く窪みを囲むように座る。
我々を取り囲む森羅万象や全ての事柄に感謝の言葉を述べながら、浴室の中央に置かれた熱した石に薬草を煎じたハーブティーを振りかけると、たちまち熱い蒸気が小さな空間に広がり、清めの儀式が始まる。
じわじわと温かくなる蒸気によって、体から汗が出てくる。まるで体の中の不純物が取り除かれていくかのように。
楽器を鳴らし、歌を歌い、心も体も浄化されていくようで、終わった後はまるで生まれ変わったかのようだった。
テマスカルが終わった直後のような、生まれ変わったような、全てに感謝したいような、そんな心持ちでずっといられたらいいのだけれど。
またコーヒー農園に滞在しながら、そこから車で1時間ほどの場所にあるプエルト・エスコンディドも訪れた。
美しいビーチがあり、サーファーが集まる観光地として有名。
大西洋に面した海は、海水温度も丁度良くて海水浴には最高だった。
また農園近郊にある小さな街サン・ファン・ラチャオでのお祭りにも訪れた。
広場には爆竹を大量に搭載した塔「カスティージョ」、そして同じく爆竹を搭載した手持ち用の「トリート」が。
これが祭りの最後で豪快に火を噴くのだが(笑)
村には、屋台も出てめちゃくちゃ賑わっている。
中央広場のステージでは、各グループが伝統的なオアハカ地方の踊りを披露。
途中「トリート」の爆竹が観客席に飛び込みパニックになったのは、ちょっと笑えた(笑)
全てのダンスが終わり、最後のイベント。
そこではたくさんの「トリート」が登場し、大衆からランダムにトリートを担ぎ、爆竹で火花を散らしながら走り回る人が登場。
そんなトリートに闘牛に挑むかのように、火花が散る中を度胸試しに走り回る人々。
そんな人々にトリートを担ぐ人々は火花をかぶせようとする…めっちゃ危険な祭り(笑)
そしてカスティージョという名の塔に点火され、大量の爆竹が火を噴く。そして超至近距離から花火が空に上がる。
そしてこれにてお祭り終了かと思いきや、音楽にのせて踊る村人たち。お祭りは始まったばかりで、これから3日間続くらしい。
一ヶ月ほど滞在すると、まるで自分の家のように居心地がよくなってしまって、次に移動するのが難しい。
アンゴラ以来5ヵ月ぶりと、久しぶりのワークアウェイを使っての滞在だったけれど、やっぱり楽しいな。
観光地やトレッキング、絶景スポットを周るだけの旅では、得られない体験とホストファミリーとの絆。
さて別れは寂しいが、旅を続けよう。
滞在していたランチョ・エル・サグラドのホームページのリンクを貼っておきます。
気になった方はぜひ!
おわりに
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